秋霧の朝に/帆場蔵人
 
びに行った。会ってみると文章から想像したような穏やかな風貌ではなかったが、とても良く笑う人だった。虎じいは若い頃、日本中を旅したそうでその話はとても面白かった。飛騨高山で天狗に会った話や兵隊をしていた頃に支那で一つ目小僧に化かされただの、子どもを楽しませるためのよもやま話だったのか、本当の話だったのかはわからないが虎じいは子ども相手に同じ目線で話してくれる愉快な人だった。しかしある時、父にその話をすると不機嫌な顔をしてもう行くな、という。理由を聞けば、うるさい、と怒鳴りつけられた。怒り出すと平手どころか、何が飛んで来るかわからない父だから僕はその日から次第に虎じいの家に足を向けなくなった。祖母が、
[次のページ]
戻る   Point(3)