生きてきたこと:Part 2.1/由比良 倖
だと昔思っていた。僕はもう、何も好きじゃなかった。
何が好きなのか、何が好きじゃないのか、本当に分からなかった。音楽を聴いても何も感じない。不安は感じる。本も読めない。読んでも何が書いているのか分からない。好きにもなれないし、嫌いにもなれない。
ひどくなってくると、言葉を見ると、言葉が音として聞こえるようになった。自分が考えていること、認識していることと、外の音の区別が付かなくなっていた。「あ、動くな」と思うと、あらゆるものが動いて見えた。自室のドアの前に信楽焼のタヌキを置いていたんだけど、部屋に戻るたびにタヌキが直線的にすいすい動くので、嫌になってタヌキを捨ててしまった。部屋にポスターを
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