十月に(月と柘榴)/待針夢子
 
った、
女子寮の頃の比奈子に思いを馳せ、
私は笑いつづけます。


長い間煮られたのでしょう。
泡だった白身と、色の変わった黄身を突き崩すのは、
病人には重労働で、私はレンゲを放りました。
何とはなしに、
窓辺の柘榴をひとつ、手に取りました。

バクリと裂けた皮膚の奥から、
宝石のような歯列が覗いています。
わずかにわずかに欲情して、
裂け目に口をつけました。


目を上げれば、カギのかかった窓のむこう、
満月にはまだ少し遠い月が、黄色い汗をかいて泳いでいます。


「柘榴はね人間の味がするんだよ」
私に柘榴を手渡した、裏の家のお爺さんの声を聞きながら、
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