十月に(月と柘榴)/待針夢子
ら、
その口の中にある腐りかけた闇を思い出しながら、
私は柘榴を齧ります。
比奈子が、黄と朱の着あわせは、最悪だよとぼやいていました。
黄と緋の食い合わせはどうなのだろうと、
首を傾げながら、
私は柘榴を齧ります。
時計が一時をしめしています。
もうすぐ、比奈子が帰ってきたら、
ひとつ余った柘榴を使って、
何か飲み物を作ってもらおうと思いました。
風邪には薬が一番だと、思い込んでいる比奈子に、
雑炊の作り方も教えなければなりません。
最奥に三粒残った柘榴を、中指で掻き出して、
雑炊の中に散らしました。
冷たく固まった黄身の横に、
秋の宝石は凛として溶け込まず、
私はまたげらりげらりと腹を抱えて笑いました。
指先の下の胃袋を通して、
先ほど飲み込んだ、
美しい緋色が。
老人の醜い闇が。
すうっと溶けて、
静かに血肉になってゆくのを感じます。
カギのかかった窓のむこう、
満月にはまだ少し遠い月が、黄色い汗をかいて泳いでいます。
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