小夜時雨の街/帆場蔵人
青蛙のじいさんが差し出してきた手紙を受け取って、歩きだしてからその潮の香りのする小封筒の宛名がナジム宛だと気がついた。もう青蛙のじいさんの歌声は遠ざかっていて、途方に暮れてしまう。よりによってナジム宛の手紙なんて。しかし、何の役目も持たないぼくにはお似合いのお使いかもしれない。
ナジムは遠い国から、ぼくたちの知らない町からやってきた青年だ。海を越えて(生まれてこのかた海を見たことはないけど、渡り鳥たちが言うには海水はしょっぱいらしい、信じられない!) ナジムは大概、歌っている。風や雨とともに、その身体を楽器にして潮の香りのする歌を響かせるんだ。町のみんながその歌声を愛している。でもぼくは彼
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