ルナ・オービター/春日線香
ちかちかと電気が瞬いている。乗っている人は陽気に弁当などを食べているらしく、華やかな歓楽の気配が伝わってくる。それならあちらは何ですか、ともう少し深いところを指差してみると、あっちのは船だという。いくぶんくたびれ気味とはいえ往時の姿をよく残していて風情がある。階段状に下に行くにつれて古い時代に遡っていくようで、周辺を浴衣を着た人々がそぞろ歩いている。私たちも楽しく話しつつゆっくりとそちらに向かう。
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フローベールの幻の旅行記が出版されるらしいとの噂が界隈に流れる。極秘で日本に滞在していた本人が編集者に原稿を託していったらしく、まさにその原稿だという画
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