ルナ・オービター/春日線香
う画像がネットに出回っているのだ。骨壺と言っても差し支えないような大きさの壺に綿が目一杯に詰まっていて、少し綿を取り除けると黄鉄鉱のような塊がいくつか入っている。その微細な結晶面を特殊な機械にかけて読解するらしい。さらに仏日翻訳もしなければならないことを考えるとなんという手間だろう。あれではまだまだ何年もかかるに違いない。生きているうちにどうにか読めれば嬉しいのだが。
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月の東京から月の横須賀へ。道中は電車での快適な旅で、森の中を通る路線はまことに心が晴れるもの。広いシートは大人が数人並んでも十分なほど広く、窓から差し込む木漏れ日は眠気を誘う。途中下車して名物の遺跡や寺院を見学するのも楽しいし、そこでちょっとした講義を受けて学を深めるのも意義がありそうだ。ただ息苦しいのが難点ではあって、人々は皆ゼリー状のマスクを顔に装着している。月であっても酸素の供給は万全だ。とはいえ、これは秘密なのだが、マスクは気休めであって、本当は皆もう息などしなくてもいいのだけれど。
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