針女その他の物語 2018・9-10/春日線香
 
冷蔵庫のドリンクホルダーに挿さった牛乳パックの底に、冷たく青い犬の目が沈んでいるのを私は知っている。かすかに揺れているのを知っている。


         * * *


夜の街に赤い糸が絡みつく。ガソリンスタンドから交番へ、団地へ、駅へ、ことさら明るい信号の数々へ。死も生も絡め取るこの無尽の描線を爪弾いて、絶叫するものがある。絶叫するものがある。絶叫するものがある。赤い糸に包まれた街がさらに死に果てて生まれる場所に向けて、喉を破り尽くして絶叫する天蓋の下で、僕らは真っ赤に閉ざされた眠りを眠る。


         * * *


真っ赤に閉ざされた眠りを眠る。その眠り
[次のページ]
戻る   Point(2)