針女その他の物語 2018・9-10/春日線香
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山間の小道はいつしか畳敷となり、やがて布団の上を行くことになった。枕やシーツに足を取られながら進むのはもはや森ではなく暗い屋内に変わり、果てのない広がりを手探り足探りで行くのは大層恐ろしく心細かった。だが早くしなければ何もかも手遅れになってしまう。家族がこの先で今にも牛鬼に食われようとしているのだ。もう食われて骨の山になっているかもしれないのだ!
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雨風が強いので窓を開けられない。上がっていこうとする室温を扇風機の羽でかき混ぜて、今この時に頭上で輪を描く低気圧の巨大さを想像する。風が窓を揺らし、壁は思い出したようにぴしぴしと鳴る。冷蔵
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