幽霊と虎/片野晃司
 
それから空は夏雲湧き立ち、風は川を越えて丘を越えて、それから線路を越えて団地を越えて、それからあの家の窓を抜けて、あの白い壁の部屋をぐるりと回る。部屋には檻があって虎がいて、虎は檻の中で待っている。誰かが玄関をあけて廊下を抜けて虎の檻に入っていって、虎に組みしだかれて引き裂かれてばらばらにされて食べられてしまう。ぼくはその湿った物音だけを壁の影になって聞いている。また誰かが玄関をあけて廊下を抜けて虎の檻に入っていって、虎に組みしだかれて引き裂かれてばらばらにされて食べられてしまう。ぼくは虎の荒い息遣いと引き裂かれる誰かのあえぎ声を部屋の隅のくらがりになって聞いている。またぼくの知らない誰かがやって
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