夢夜、一 「灰色病と、花輪にうずもれるボルゾイの長い首」/田中修子
 
 立ちすくんでいる私に声をかけてきたのは、どこからあらわれたものだろう、腰の曲がった老人だった。白髪に穏やかな茶色(茶色!)の眼差し。目が少し悪いのか茶色の目は蕩けかけているようにも見えるけれど。どれくらい洗濯されていないかも分からない、古びてボロボロになった緑色の(緑色!)ジャンパーに、ぼろぼろではあるけれどあたたかそうなベージュ(ベージュ!)のだぼだぼのズボン。そうして黒いレインコート。
 この闘技場には、この老人には、やわらかな色がある。

 「あのシェルティーは、ずっとずっと駆けていたんだ。どうしたかな、と思っていたが、お前さんを待っていたのだね」
「そうですか……」
「降る雨は
[次のページ]
戻る   Point(2)