夢夜、一 「灰色病と、花輪にうずもれるボルゾイの長い首」/田中修子
 
雨は犬たちの、あわれな、心を失ったひとびとを思う涙さ。さて、いきなりだが本題だ」
「はぁ」
私はもうこくこくと頷くだけだ。
「わしのこの仕事を引き継いでほしい。いや、なに、かんたんな仕事だ。あそこに年中何もしなくてもみのる畑があり、年を取らぬヤギや勝手に増える鶏もいる。贅沢を求めなければ、麦や野菜や乳、卵で生活していけるはずだ。そのうちにヤギの乳で酒も作れるかもしれないな。闘技場の入り口が雨よけの場所になる」
ごくり、と私の喉が鳴る。ほとんどの日、私たちはペースト状の栄養飯で生活しているから。
「それから、重要なのは花畑だ。ほれ」
「花畑? そんなもの、見えませんが」
「闘技場の、石
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