夢夜、一 「灰色病と、花輪にうずもれるボルゾイの長い首」/田中修子
、石段の上さ。石段に見えるがね、あれはみな花壇なのさ」
ああ、と私は声を噛み殺した。
いつのまにか、石段の上には花々が咲いていた。
青い紫陽花、赤やピンクや黄色のばら、重たげに頭をさげる八重の山吹色、しだれて咲く淡いピンクの桜。ここからは見えない花々も多いだろう。見上げる闘技場は、いつのまにか闘技場自体が花瓶のようだ。
「わしは、七色薬の発明者さ。数十年も昔、わしの髪がまだ真っ黒だったころよ」
「え、あなたが」
「そのころ、わし自身が灰色病を発症しておってな。ただただわしは、元の世界の色を見たかったんじゃ。研究し研究し、元の世界の色を取り戻す薬を発明した、しかし」
老人はかな
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