うみのほね/田中修子
に塗り込もうとしていた。彼の骨ばった腕をなぞっているときに、てのひらに違和感があり、思わず目を開けてしまった。
もう何年も前の傷らしく、完全に皮膚の色と同じになっていたが、血を流していたときは相当深いものだったに違いない。私はその傷跡を幾度もさすった。そうしながら彼の目を覗き込むと、そこには暗い影は少しもなかった。温かなお風呂に浸かっているような目をしていた。
私たちは多分悲しいのも苦しいのも一周して、海岸の砂のようになってしまったのだと思う。もとは珊瑚や貝殻だったのだけれど、今はさらさらして色のない、なんでもないものに。
ある日、電話が鳴った。どうやったつてで辿り着いたものか
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