うみのほね/田中修子
 
切り裂いて笑っていた。私はその様子をうっとりと見ていた。彼のその欲望は私自身のものだった。私が最後に、床に伏し血を流して泣き叫ぶ男のズボンから財布を盗る。それだけで、十分生活していける。
 私はこの上なくこの街を、この生活を、愛していた。

 食生活も二人のお気に入りだった。中でも、あの蕎麦は一番頻繁にメニューに登場した。蕎麦を食べるのは朝で、しかも前の夜に茹でて冷蔵庫に突っ込んでおかなければならない。そこにとろろと、ウズラの卵と、醤油とマヨネーズをかけて食べる。
 キラキラの穴のあいた五円玉で無事買った暗い部屋は暮らして一週間で散らかった。備え付けのベッドのマットも少し湿っている。その中
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