うみのほね/田中修子
パートにたどり着き、体中で叫ぶように息をしている私を、彼は抱きしめる。
もう二度と、海には行かなかった。
私たちが生きている貧しい街は、観光客がうろうろしていると身ぐるみはがれる、そういう場所でもある。
彼は喧嘩がとても強かった。強いというよりは卑怯だったのかもしれない。その街の喧嘩はごく簡単に始まるのだが、ごく簡単に終わるものでもあった。相手が降参を申し出るか、もしくはどちらかが血を流した場合、誰が仲裁に入るでもなく、すんなりと和解が成立する。
けれど彼はそうしなかった。彼は私の目の前で存分に相手を叩きのめした後、どこにでも転がっているガラス片を取って、相手の腕か足を切り
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