うみのほね/田中修子
 
のページに「もうだめだ。」と書いてあった。その文字を記して少しして、真さんは死んだのだ。
 暗い色彩の海の絵を見ていたら、海の傍で暮らしたい、と強く感じた。彼にそう言うと、彼は頷いて私の手を撫でた。
 街を出るときに電線が鳴っていた。電気の唸りが私たちに別れを告げていた。

 私たちの新しい住処は地下列車を乗り継いで三日ほど行った、海沿いの美しいスラム街にあるアパートだ。美しいというのは、秩序だった無秩序がそこには存在していたからだ。その街には高い高層ビルはなく、煉瓦や木でできている背の低い建物が中心だった。海の方に行けばいくほどぼろぼろの平屋が増えて行く。コンクリートに慣れている私には、
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