うみのほね/田中修子
 
大変だな、と思った。昔の人のように頭が良いのだったら、きっとこの世界は気が狂っているように見えるだろう。

 彼は部屋から一冊の本だけ持ってきた。「赤い蝋燭と人魚」というその本を見たとたん、涙が出る。真さん、久しぶり、と私は呟いた。その本からは真さんの匂いがした。聞くと少し前に遠くの街の高層マンションのゴミ捨て場にあったのを持ってきたのだという。まとめられて捨てられていたのだが、この本は特に補修されながらボロボロになるまで読んであって、それなのに捨てられなければならなかった事情を不思議に思って拾ったのだ、と。
 場所を詳しく聞くとそこはまさしく真さんのマンションだった。読んでいくと、最後のペ
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