レモンジュース・ダイアリー(2)/由比良 倖
のまばらに生えた頬をさすっていた。私はやっと、城井さんにまだ何も出してなかったことに気が付いて、立ち上がりかけた。すると城井さんは「いいよいいよ。私はこれを届けに来ただけなんだから。仕事が済んでいい気持ちだ。あとは君がこれを弾いてくれればいいがね」と言った。
「こんなに素晴らしいとは思わなかったわ」
と私は、最大限の賛辞を込めたかったけれど、それが否定形で表されてしまったことに瞬時不満を覚えながらも、言った。
私は腕のぐらついた人形のような手つきで、そのギターをまたケースに戻した。
「弾かないんだね」
「ええ」
「無論」
彼はそこで口を切って、私はその間に紅茶を入れに調理台に立った。
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