レモンジュース・ダイアリー(2)/由比良 倖
 
満足しているようだった。
ケースの留め金を外すと、ことん、というまるい音がした。それを開くと周りの空気が一瞬にして濃くなったような気がした。ギターは完全に磨かれていて、その表面には光る粒子を纏っていた。弦の一本一本がすでに音楽を始めていた。私の中では音楽はもう始まっていた。私がそれに触ることによって、その音楽が止むのではないかという恐れさえ抱かせた。それでもネックの部分をつかんでギターを取り出すと、ネックの丸みにもボディの重さにも、何処にもよそよそしさは無かった。まるで安心しきった子供が私の手を握り返してくるようにしてギターは私の腕の中にあった。
城井さんは何も言わずに優しく笑みながら、髭のま
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