レモンジュース・ダイアリー(2)/由比良 倖
 
そのケースは上品な色をしていて、セルロイドでないなら、何か空想上の動物、例えば、そう、西洋の竜の鱗のような、目の奥に滲んでくる深い青をしていた。城井さんは「もちろん」と言って、テーブルにその直方体のケースを立て掛けて、二つしかない椅子のうちのひとつに座った。
「君のギターなのだからね」
私は信じられないような思いで、城井さんの向かいの椅子に座って、そのギターケースを膝に乗せた。確かな(むしろ確かすぎてまるでギターじゃない何かが入っているみたいな)重みの、その表面には細かな凹凸があって、私はそれをいつまでも撫でていたいような気分になった。
「開けないのかい」
と言った城井さんも私の反応に満足
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