褐色の濃いあたりに/深水遊脚
 
っと倉橋さんの近くにいていろんなことを知りたいと思った。彼女がポツリとこう言ったのはいつまでも残った。

「私のほうが甘えること、あるかもしれない。そのときは1回は私に付き合ってね。2回目から無視しても構わないけれど、1回だけ」

2回目も無視しないよ、そう私は伝えたけれど、その約束はいらないと返された。大事にするもの、しないものについて、曖昧なまま生きている私のことを倉橋さんは見透かしているのかもしれない。

 お店をでて少し一緒に散歩することにした。倉橋さんはマスターの点てたニカラグアの、珈琲豆と、ドリップバッグを2つ注文していた。彼女が受け取ったドリップバッグをみたら、あからさま
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