褐色の濃いあたりに/深水遊脚
 
さまなクリスマス仕様、それも恋人同士向けのパッケージで、私は思わずマスターに視線を投げた。どういうつもりかと。

「いや、パッケージがこれしかなくてね。いいじゃないですか。お似合いですよ、彼女に」

1つめは嘘だろう。棚の右上に通常パターンのドリップバッグの素材がたくさんあるのが見えていた。でも2つめはどうか。彼女と誰にお似合いなのだろう。旦那さん?彼氏?私?そんな気持ちにしばらく揺れながら、クリスマスの飾りであふれる通りを倉橋さんと一緒に歩いた。来たときの苛立ちは消えていた。褐色の濃淡で世界を捉え直したとき、その濃いあたりを私は避けて知らずにきていたのかもしれない。でも倉橋さんが隣にいることで、違う風景が少しみられる気がした。街に、あるいは倉橋さんのなかに。
[グループ]
戻る   Point(3)