『咲いていた』/葉月 祐
 



そうして
髪や上着がしっとりする頃
私には ただ
雨とヒトの匂いだけが
染み込みながら 残された



雨雲の裂け目から
音も無く射し降りてくる
限界まで色をそぎ落とした
長く美しい 金色の梯子が
雨の終わりを人々に告げていたらしい



触れる事の出来ない
無数の梯子を眺めて
私は ひとり
傘も持たずに
雨上がりに咲いていた


冷たい風に吹かれ
白い太陽に照らされ
足元にきらめき
名前を覚えられず
誰かに呼ばれる事も無い


その小さな花達と同じように


髪や頬から
雫の名残を滴らせながら
ひとり
歩道に咲い
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