夢のなかに生きる/天才詩人
は再建法で建設中止になったローカル線を選んでは、縦に横に、車窓から、稲穂が金色の日差しに揺れる田園地帯を眺め、「東北」を発見していていったのだ。
宮沢賢治の「イーハトーヴ」という言葉の由来については、諸説あるらしい。僕は扇風機が淡い風を送る八月の夜、蛍光灯に照らされた畳の部屋で、白いタオルケットにくるまれながら、母が耳元でささやく、カンパネルラが灯篭を流す日に、空に大きな星の隧道が架かっていた情景や、『注文の多い料理店』の小さな鍵穴から猫の目が覗いている表紙の話を、まどろみのなかで聞いた。だが大正時代のロマンチックな雰囲気を考えたとしても、「イーハトーヴ」は首肯しがたい。イトーヨーカドーじゃ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)