闇夜、或いは月の朝/村上 和
 
りにつく



数秒後か数分後
あるいは数年後の午前四時
私は浅い眠りから覚めて
紙のようにぺらぺらになった裸体で
スリッパを履いてまずシャワーに向かう
水を浴びることで
舌や胸やふくらはぎが元の形に膨らみ
潰れた食道や気管もストローの形を取り戻す
一番最初に形を戻し球体となった瞳はまだ瞼の中だ

シャワーの雨音が
またひたひたと足音に変わり
私の傍で立ち止まる

どこにもいかないで
と狭い空間に響く声
何も返してはくれない



脱衣所の方から小さくシャワーの音がする
誰もいない部屋のカーテンの隙間には
既に淡い光がある
静かな夜の雨は朝に止
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