闇夜、或いは月の朝/村上 和
 
に止む

カーテンはまだ開かない
月夜に似せた電球の下で
食事を摂るために

お鍋に水、醤油、酒、砂糖、みりんを入れて沸騰させ魚を入れてことことと煮る
その間にキャベツ、玉ねぎ、ワカメのお味噌汁を作ってご飯もよそっておく

いただきます
と生命を咀嚼する

電球のような月の下
ただ粛々と咀嚼する、
食器を洗う、
髪を梳く
軽くまとめてピンで留める
立ち上がり
ちいさな鞄を肩から提げて
いつも棚の上のアンティークのお皿に置いてある
透明な約束を手に取って
部屋の中央に垂れた紐を引くと
パチンと音がして光が消えた
ただ粛々と
朝に出かけるために



いってきます
朽ち果てた部屋の
誰もいない玄関の扉が閉まる

ひたひたと
足音は遠ざかる
重なっていた私の身体から離れ
数センチか数メートル
あるいは数光年の裏表

どこにもいかないで
とつぶやいてみても
何も返してはくれない

さようなら
何も返してはくれない

守りたいと思っていた約束を
守らないまま鞄に入れて
闇夜、の終わり、午前五時に家を出る
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