貼り紙世界の果て/カンチェルスキス
貼ったのである。ただ、溝堀が何をやらかすかは、住民たちの誰も知らなかった。何かやらかすということだけは広く知れ渡っていた。浮雲のような男が、何者かに感化され、よからぬことを企ててている。そんな流言すら飛び交っていた。一枚書きの太字の明朝体に、住民たちの不安と緊張感がにじんでいた。一週間前から、溝堀の姿が見当たらなくなったのも、住民たちには不気味だった―。
歩きながら、人はいろんなことを考えるものである。
掲示板を過ぎ去って、次の電信柱に、
「○月○日○曜日、溝堀」
とさっきと同じ一枚書きを見つけたとき、私ははっと目が覚めたのである。ほんとに目が覚めたように感じたものである。溝堀=ドブ
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