貼り紙世界の果て/カンチェルスキス
 
たのである。清々しいほどだった。打つほうは打つほうで、忍者のようにバットを構え、忍者への憧れを隠そうとしなかった。もちろん、打席も試合結果もペケである。なんでかわからないが、あらゆる局面で、溝堀はそんなふうだった。そのことに苦悩し、うなだれて歩くわけでもなく、ポケットにいくらかのきなこ棒があったら満足げな様子だった。きなこ棒は彼の大好物だったのである。
 そうやって、憎まれこそしないものの、町内ではちょっと浮いた人物として、溝堀は住民から認識されていたのである。
 その溝堀が、○月○日に何かやらかす―。どこからか噂を聞きつけた誰かが、掲示板を始め各電信柱に『溝堀対策』のため、あの一枚書きを貼っ
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