散乱/田代深子
千頁分ほどのタオルにくるまれ 乾き
きった関東平野 冬の土中 によこたわり微睡んでいる誰にも気づ
かれないよう四千年もそのまま いま父の膝に納まっているのは妹
が きっと どこかの凍土 から掘り出しせっせと滋養を与え湯浴
みし髪をすき用便をおしえいつくしみこしらえている かつてわた
したちが そのようにあらしめられたような母をスプーンでそぎ
とって食べてきたひたすら うながされ充填されていく 身体まだ
黒髪さえ光り透けるような
わたしたちはめずらしく目を合わせる おはよう 節会の食を炬燵
にはこぶ柑橘のしぶきをあげ て果肉をほぐす小振りな指 みかん
蜜 柑 の香 朝の酔い
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