風の寅次郎/服部 剛
雲がひとつ
ふわりと浮いていた
四
皆からはぐれた僕は
再び落ち合うために柴又駅まで戻って
緑の公衆電話で
友達のはるちゃんの携帯電話の番号を押して
「今ねぇ、とらさんの像の近くにいるんだけど・・・」
受話器を置いてから
とらさんの足元に飼い猫のように
ごろにゃんと凭(もた)れて座り
「とらさん、今日はいい一日でした・・・」
と足元からとらさんを見上げると
「ごん」
固いコートの風になびいたところに頭をぶつけ
「いてててて・・・」とひとり頭をかかえた
もう一度とらさんを見上げると
空から数滴の雨粒が降って
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