風の寅次郎/服部 剛
 

畳の上でくつろぐ僕等の
それぞれの胸に
翼の生えた言霊達が
流れるように吸い込まれていった



午後四時半
僕等は借りていた和室を
いくつもの手ですみやかにかたずけ
葛飾区民センターを出てから僕は

「とらさんの気分になってきます」

とひとりはぐれて皆の笑顔に見送られながら
江戸川の土手を登って
ゆったりとした川の流れをみつめながら
遠い空の下で今日も
影では口を結びながら
人前ではけなげな花となり
笑顔を咲かせている女(ひと)のことを想った

後ろから風が吹いてきて
映画の中のとらさんが
ふぅわりと透けた体で現れて
土手にしゃが
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