風の寅次郎/服部 剛
 
よぉぅ・・・」

そんな二人から少し離れたところで
とらさんは
黙った背中をこちらに向けていた



午後一時
柴又駅の改札口で待ち合わせた僕等は
道の両端に古い店が並び、にぎわう人々の間をぬけて
醤油(しょうゆ)の匂いがただよう帝釈天参道を歩き
とらさんの実家のだんご屋をちらと覗けば
今にも妹のさくらが
「いらっしゃいませ!」
と店の奥の部屋から笑顔を見せてくれそうで
美味しいと噂のだんごに後ろ髪を引かれながらも
僕等はまっすぐに題経寺の門をくぐり
金色の柄杓(ひしゃく)で汲んだ水で手を清め
賽銭箱に小銭を投げて、ひとりずつお祈りした


[次のページ]
戻る   Point(12)