薔薇/あおい満月
、
もうひとつの月がいることを
娘はよく知っている。
**
穏やかな漣を持つ、
海のような人だった。
うわべのような、
贅沢な台詞は言わない、
けれど、
娘が不安定に歩む度に、
手を繋いでくれる人だった。
娘はその言葉のない小さな愛を
誰よりも深く愛していた。
誰も知らない深い森の奥で
娘はあの月のような瞳と、
刹那に深く愛し合った。
***
娘は知らない。
あの月のような瞳のおくにある
獰猛なほどに激しい、
激流する血の光を。
ある日、
あの月のような瞳が
娘の腕を力強く握り返した。
その刹那、
娘の脳裏にある時の背中が翳った。
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