薔薇/あおい満月
 

昔、
娘の父親と母親が激しく罵り合っていた姿を。
母親は父親の獰猛さを、
ころころと舌でワインにして
転がしているようだった。
自分はそんな風になれるだろうか。
まだ小さかった娘には想像を絶した。

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自分はこれからあの月のような瞳を
どんな風に愛していけばいいのか、
娘は同じ途を何度も往来している。
現にあの月のような瞳には、
もうひとつの月がいるというのに。
娘は右手に握った一輪の薔薇を
もう一度握りしめる。
やはり信じるものは、
この渇ききった林の奥の、
瞳しかないのだ。
今日も娘は、
雑踏を振り切りながら歩く。


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