チューしてあげる/島中 充
 
やすいように斜めに生えていた。土塀の瓦のはるか上で、おおきく枝分かれしていた。6メートルほどの高さの枝分れまで登り、ケイコはいつもそこにスカートの裾からパンツを少しのぞかせながら腰をかけていた。そして、塀越しに下の道を知った人が通ると声をかけた。「おーい、班長」これがぼくにかける声であった。ぼくはそれがひどくいやであった。通りで木に登っている女の子から、なれなれしく頭上から呼ばれる筋合いはないと思っていた。木に登るのは猿である。鼻たれ猿に馴れ馴れしくされる覚えはないのである。そのうえ、時おりケイコのお母さんが出て来て、ぼくの手にお菓子を握らせた。
「ケイコがいつもお世話になりまして」などと言われ
[次のページ]
戻る   Point(1)