チューしてあげる/島中 充
 
われると、ぼくは一目散に逃げ出したい気がした。木の上のケイコから声をかけられても、ぼくはチャップリンの泥棒が不意に警察官に出くわす時のやり方で、口笛などを吹いて、いかにも知らないふりにやりすごすのが常だった。きのう、ケイコはその松の木から
「班長、ここまでおいで」と声をかけてきた。そして少しうつむいて何か考えていたかと思うと、不意にとんでもない事を言った。
「ここまで登って来たら、チューしてあげる。」こともあろうに班長であり学級委員であるぼくにむかって、ここまで来たらチューしてあげると言ったのだ。ぼくの顔はみるみる真っ赤になり、かたわらの地面の石を掴んだ。
「くっそ」とスカートの下に見える白
[次のページ]
戻る   Point(1)