チェーンソー/そらの珊瑚
お隣りさんから伸びている皐月の枝に腹を立てて
お父さん、チェーンソーで切ったのよ
根元から
母の愚痴のほぼ全ては父のことで占められているから
電話はいつも父への悪口で終わるのだった
母が何を言っても耳を貸さない父
それどころか倍になって反論し
正論とか常識といったたぐいの説得ほど
油に火を注ぐような結果になるので
もう母は父に何も言わないと決めたらしい
隣家に頭を下げ
無残に切られた枝の後始末だけをするという
隣家に住む父の兄との確執は
父が少年時代から延々と続く
こじれにこじれたもので そこには
誰も太刀打ちできないような深い年輪が刻まれている
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