チェーンソー/そらの珊瑚
 
いる

父は優しい人だった
子らとにぎやかな鈴虫を育てて
夏の夕方には庭の植物たちに水をたっぷりとやるのが日課だったが
父が夜勤の日には
父との約束通り
小学生だった私がそれを真似た
乾いた地面に撒いた水が黒いしるしを付けるも
それはあっという間に蒸発してしまうから
植物の根をちゃんと潤すまで
根気よくしなければならないと父から教わった
充分なところで終わればいつも
私の足はたくさんの蚊に食われていて
父がそれをみつけると必ず
長ズボンを履いて水撒きをしなさいと言う
いちいちそんなことをするのは面倒で
夏中私の足はボコボコだったけれど
花は花として命を咲かせ

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