かものはし/nonya
母親に告白されたのは15の秋
その時は笑う気にもなれなかったけれど
今じゃ笑い事でもないみたいだ
ただのあだ名じゃないことに気づいたのは
彼女との水族館デートの最中だった
彼女はかなりウケていたけれど
僕は水槽の前で凍りついていた
日に日に鋭くなっていく爪は
やがて彼女を傷つけてしまうだろう
くるぶしに溜まった毒は
いつか誰かの暮らしを奪ってしまうだろう
スーパーで魚の缶詰を買い込んで
僕は自分の6畳間にひきこもった
母親は今頃心配しだしたみたいだが
心配しても運命の足しにはならない
感情は簡単に麻痺してくれたけれど
部屋に差し込む西日だけは
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