陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
ような顔をして、太郎は誰彼構わずこう吹聴してまわり、周りから顰蹙をかっていた。
英語、数学、国語、物理、生物、化学それに世界史、つまり東大医学部受験に必要な全科目が合格ラインに遙かに届かず、人より上回っているのは気合いだけ、という太郎が、三者面談の際、「東大医学部を狙います」きっぱりとそう宣言した時、クラス担任はしばらくの間仮死状態に陥り、口をあんぐり開けたまま、うつろな瞳を宙に漂わせていた。事態のよく呑み込めない文枝だけが、満足顔で何度も何度も頷いていた。
東大入試がないなら当然浪人だな、そう心に決めた太郎が、父親に
「東大入試ないから、浪人する。
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