陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
る。よろしく」
そう告げたとたん、ビンタが飛んできた。それをまともに受けた太郎は床にひっくり返った。その目に、赤鬼のように真っ赤な顔をして仁王立ちしている父親の姿が飛び込んできた。
 父親の宗一郎は、「鬼の宗一郎」の異名を持つ大工の棟梁で、仕事には一切の妥協を許さず、彼の建てる頑丈一点張りの家は、年を重ねるごとにその家に住む家族に馴染み、家本来の良さを増してくる、と評判になり注文が相次いでいた。しかし、いつも採算度外視で家を造るので、忙しく働いている割には暮らし向きは一向に良くならず、「あんたに、もっと甲斐性があったらねぇ」ため息混じりに文枝からなじられ、「いいんだよこれで! 
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