クラブマリノス/草野大悟2
経 営したいこと。
などを、ぽつりぽつりと話した。先程店でみせた怒りは、すっかり治まっていた。
その日の午後十一時三十分頃には、倉岡はイリアの取調べを終えた。心の中に、〈お父さんと同じ時計が欲しい。家族が暮らすロシアの時間を知りたい〉というイリアの言葉が、その面差しとともに妙に痛々しく残った。
この事件を検察庁に送致し、他の事件に追われる日常に戻った倉岡の心から、イリアの姿が消えることはなかった。
一年が過ぎた頃、署のデスクでパソコンをたたいていた倉岡に、イリアから電話がかかってきた。また日本に来た、マリノスで働いているという。
倉岡は、イリアがセイコーのアナログ腕時計
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