小説における文体の問題/yamadahifumi
何度も登場させ、そしてこの歴史的事実ーーーその物語を作る、自分自身についても描写する。そして、小説の中のこの部分は事実の通りであり、資料に則って書いたとか、今の所は思わず創作してしまった、などと読者に報告する。何故、彼がそんな事を書くのか。普通に見たら、これは明らかに蛇足だが、しかし、彼はここでは単純なフィクションの約束事を破ろうとしてもがいている。彼は語る事、小説を書く事の嘘くささを自分でも感じていて、その『嘘くささ』自体を小説の中に盛り込む事により、その嘘くささを乗り越えようとする、そういう、いわば積極的な策に出ている。こういう努力は無駄ではないし、むしろ、現代という時代を考えると、非常に正当
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