ヤマダヒフミの消失/yamadahifumi
。彼は会社で、同僚や上司と世間話をするぐらいの能力は持っていた。しかし、それはあくまでも世間話であり、それはただ単に会社で業務するのに、それぞれが支障ないようにするための潤滑油のようなものだった。だから、桐野にとってまっとうな人間関係は全くといっていいくらいなかった。彼は孤独で不幸だったが、その事に対する一筋の誇りのようなものを持っていた。自分自身は何一つ成し遂げていないにも関わらず、『自分は周囲の人間とは違うんだ』と考えていた。だが、それは現代人一般が皆考えている事でもあった。こうして、彼は、二十一世紀初頭に生きる人間としては、極めて凡庸で、そして愚かな人生の道をしずしずと一人で歩いて行った。
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