ヤマダヒフミの消失/yamadahifumi
 



 彼は不幸で、そして愚かであった。彼の元には、どんな人間関係も存在せず、温かな血も存在せず、あるのはただネット上の架空の人格のみだった。そして、そんな人格などが、彼に何一つもたらさない事も彼は知っていた。しかし、桐野はどうする事もできなかった。なぜなら、彼はもうとうに、現実の内で幸福になるという幻想を捨てていたからーー。彼は、現実なるものが何なのか、人生の早い段階で知るはめになっていた。自分の親友の密かな自分への陰口、そして自分の恋人が自分の事を一ミリ足りとも理解しておらず、また理解するつもりもなかったというその事実。それらの些細な事実だけで、桐野に現実を捨てさせるには十分だった。こ
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