ミシェルウェルベック『素粒子』書評/yamadahifumi
 
を物凄く辛い気持ちにさせる。それに関しては本書を読んで確かめて欲しい。

 
 この書物はそんな風に、全編、人間に対する、あまりに皮相で、そして徹底的に冷たい(だがそれと共に愛に富んだ)描写で満ち溢れているのだが、しかし、ウェルベックがほんのわずかに、熱を上げて描いている重要な場面があるので、それを取り上げてこの書評を終わりにしたい。それはミシェルの祖母が死ぬ時の描写である。ウェルベックはこの箇所だけ、この祖母に対して熱意あふれる、真面目な描写をしている。このミシェルの祖母というのは実に凡庸な人物であり、育児放棄したミシェルの母親にかわってミシェルを愛し、そしてミシェルを育て上げたのだった。
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