(1960?1993)/佐々宝砂
 
衿はきちんとしておいた。
だが今や俺は鏡というものの存在を忘れたいと願う。
船内に鏡はない、鏡はない、
しかし俺の宇宙船にも窓はあり、
船内が明るい限り窓は暗く俺の姿を映し出し、

船内の灯りなど消してしまうに限る。

窓のそと幾光年の幾パーセクの闇黒に、
小さな黄色く懐かしい点が浮かぶ。
あれはなんというものだった?
暗い道、
窓からこぼれるともしび、
暖炉の火、暖かく、やさしく、
違う、あれはともしびではない、
やさしくはない、
人が造る暖かみではない、
しかしそれでも、
俺を生かすのは炎、乾燥、極端なまでの高温、俺を変えた熾烈、
俺は黄色い光の中で生きて
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