アルカディア/そらの珊瑚
そのわらべうたは
作者不明だという
畑に添って
作られた石垣
その隙間から
シダやペンペン草が顔を出し
しっぽがふたつに別れた小さな虫が
忙しそうに出たり入ったり
雨が降れば
水の出口になり
乾けば
新鮮な空気をとりこんで
ふたたび呼吸を始めるだろう
この石垣を作った人の手を
私は知らない
知らないけれど
息遣いに触れてみることは出来る
緑苔が広がったそこは
まるで洗いたてのびろうどのように柔らかい
幼い日
小さな足たちが幾度もそこを飛び降りた
――飛んでごらん
自分の背丈より高かったそこは
勇気を試すかのように誘った
もちろん背中に羽はなか
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