春の夜 ひいながたり/そらの珊瑚
様は、官女が持ってきたひなあられを食べる。
「姫もひとついかが、かな」
「いいえ。それよりも、わたくしはなんだか酸っぱいものが食べとうて」
「では、橘(たちばな)をもいでこらせよう」
右大臣がもいで献上した橘は、瑞々しく光り、皮をむけば爽やかな香りがあたりを満たした。姫はそれをあっという間に平らげ、もうひとつ、と望んだ。それを見ていた官女の年長者があっと声を上げる。
「姫さま、もしやお子がおできになられたのでは? 酸いものがそれほどまでに欲しいとはその証拠でございます」
「本当か、姫」
めおとになって、五年。なかなか子を授からないのを、心の中で残念に思っていたお内裏様は小躍りした
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